洋画好きの人は、ハリウッド映画で、「歯医者の予約」を口実に誘いを断るセリフを聞いたことがありませんか?
注意深く聞いていると、スケジュールを打ち合わせるシーンにはよく「歯医者の予約」が話題のなります。
日本のドラマで、そんなセリフがあったら「どこが悪いの?」って突っ込まれるかもしれません。
ハリウッド映画の「歯医者の予約」は治療ではないのです。
厚生労働省は、国民の健康目標「健康日本21」を2000年に発表しました。
そこには「定期的に歯石除去や歯面清掃を受けている者」の割合を、2010年に30%以上にしようという具体的な目標が掲げられています。
歯や歯ぐきの病気の多くは、細菌の感染症です。
そこに唾液や食事や炎症などの要因がからんで生じるのですが、この細菌は風呂場や流しのパイプにこびりついている細菌と同じで、ちょっと触ったくらいでは落ちない頑強な構造体(バイオフィルム)作っています。
このため歯や歯ぐきの細菌に薬はほとんど効きません。
これを放置しておくと、細菌から毒素や刺激物質が出つづけ、体の防御反応でかえってはを支える組織が破壊されてしまいます。
そこで歯周病の治療では、毎日、歯ブラシでていねいにブラッシングをするとともに、このしつこい細菌のかたまりを特別の方法で書き落としてとして除去するのが効果的な治療法になります。
歯ぐきに隠れた部分を専門家に定期的にクリーニングしてもらうことが、もっとも基本的な治療法です。
「健康日本21」が「定期的に歯石除去や歯面清掃」を受けようと呼びかける理由はここにあります。
慢性の病気では、予防と治療に境目はありません。
最良の治療のことを、予防と呼ぶのです。
治療中心の医療から、軸足を予防に移すことは、世界の常識です。
英国や北欧では大人になるまでは、歯科医療は無料です。
子供の医療は、予防中心の医療です。
逆に大人の治療は高額の患者負担になります。
米国歯科医師会の調査(1994年)によれば、米国人の79%が健診やクリーニングのために年1回は歯科を受診しています。
同じ年に病気の治療を目的に受診した人は12%にすぎません。
米国では、日本の健康保険のような制度がなく、民間保険会社の保険は、歯の詰め物や入れ歯の治療には部分的にしか支払いをしてくれません。
いったん治療になると高額の治療費がかかるのです。
このため多くの人は自分の身と財産を管理するために歯医者さんに通院します。
日本の場合、幸か不幸か、歯を削って詰めたり入れ歯を入れる治療が、健康保険によって比較的広くカバーされています。
皮肉なことに、これがかえって予防への取り組みを遅らせているのです。
現在の健康保険では、病気が進行して歯や歯ぐきに著しい兆候が出ないと治療できません。
このため予防的なニュアンスの治療は、保険ではとても取り扱いしにくいのです。これが予防に積極的な歯科医が、なかなか増えない理由にもなっています。
厚労省の調査では、50歳以上の国民は10年間に平均5.4本の歯を失っています。
これに対して定期管理を受けている人たち(日本ヘルスケア歯科研究データ・通院患者30歳以上)を調べると10年間に平均0.7本の歯しか失っていません。
元々、歯の状態が悪くて受診した患者のデータであることを考えれば、この差は大きな意味を持っています。
失敗してから痛い思いをしてお金をかけて頻繁に通うか、気持ちよく年に数回通うか?
数ヶ月に一度、美容院や散髪に行くように健康管理のために通うのが、これからの歯科のかかり方です。
|